経産婦は妊娠しやすい、という話を耳にしたことがあるかもしれません。
一度出産を経験した体は、妊娠に適した状態に変化している部分があり、この説には一定の医学的根拠が存在します。
しかし、全ての経産婦がすぐに次の妊娠に至るわけではなく、二人目不妊に悩む人も少なくありません。
この記事では、経産婦が妊娠しやすいとされる理由と、一方で注意すべき不妊のリスクについて、体の変化や生活環境の観点から解説します。
「経産婦は妊娠しやすい」と言われる医学的な理由
経産婦の方が妊娠しやすいと言われる背景には、出産経験による母体の変化が関係しています。
一度目の妊娠・出産を経ることで、子宮の環境が整ったり、ホルモンバランスが安定しやすくなったりと、妊娠に向けて有利な条件が揃うことがあります。
また、初産時のような未知の不安が少ない精神的な余裕も、妊娠しやすさに影響を与える一因と考えられています。
ここでは、経産婦の妊娠しやすさに関する医学的な理由を詳しく見ていきます。
出産経験によって子宮の環境が妊娠に適した状態になるため
一度出産を経験すると、子宮の環境が受精卵にとって着床しやすい状態に整うことがあります。
妊娠中に胎盤が作られる過程で、子宮には多くの血液が送られます。
この豊富な血流が産後も維持されやすく、子宮内膜が厚くふかふかな状態になりやすいのです。
栄養が十分に行き届いた厚い子宮内膜は、受精卵が着床するためのベッドのような役割を果たします。
そのため、初産婦に比べて子宮環境が良好に保たれ、受精卵を迎え入れる準備が整いやすくなることが、妊娠につながる一つの要因と考えられています。
一度妊娠を経験しホルモンバランスが安定しやすいため
妊娠から出産、そして授乳という一連の流れは女性のホルモンバランスに大きな影響を与えます。特に産後はエストロゲンやプロゲステロンの急激な減少により、ホルモンバランスが大きく変動することがあります。
この期間を経て、月経周期が安定しやすくなるなどの変化が見られるケースもありますが、月経が遅れる傾向を示すこともあります。ホルモンバランスの変動は心身のコンディションに影響を与える可能性があり、妊活を考慮する上で自身の体の状態を理解することが重要です。
妊娠から出産までの流れを把握できている精神的な余裕があるため
初めての妊娠では、体の変化や出産の痛み、育児への不安など、未知の経験に対するストレスが大きくなりがちです。
しかし、経産婦は一度その過程を経験しているため、妊娠中の体の変化や妊活の進め方について知識があり、精神的な余裕が生まれやすい傾向にあります。
過度なストレスはホルモンバランスを乱し、排卵に悪影響を及ぼすことが知られています。
そのため、リラックスした気持ちで妊活に取り組めることは、妊娠しやすい体づくりにおいて大きなメリットとなります。
先の見通しが立つ安心感が、心身のコンディションを良好に保ち、妊娠へとつながりやすくなるのです。
一度出産を経験した経産婦に見られる体の変化
出産という大きな仕事を終えた母体には、いくつかの特徴的な変化が現れます。
これらの変化の中には、次の妊娠をサポートするように働くものも含まれています。
例えば、子宮口の状態や子宮への血流、骨盤周りの柔軟性などは、初産婦の体とは異なる状態になっています。
これらの物理的な変化が、二人目以降の妊娠しやすさにどう影響するのか、具体的な体の変化に焦点を当てて解説していきます。
子宮口が柔らかくなり受精卵が着床しやすくなる
経産婦の子宮口は、一度も出産を経験していない初産婦に比べて柔らかくなっているという特徴があります。これは、出産時に赤ちゃんが通るために子宮口が大きく開いた経験によるものです。
産後、子宮口は元の状態に戻りますが、完全には閉じきらず、少し開いた状態を保つことや、伸縮性が高まることがあります。この子宮口の柔軟性が、生殖機能に直接的な影響を与えるという明確な科学的根拠は確認されていません。
子宮への血流が良い状態が保たれやすくなる
妊娠すると、胎児に栄養や酸素を供給するため、子宮や胎盤への血流が大幅に増加します。
このとき、子宮周辺には新しい血管が作られ、血流が豊富な状態になります。
子宮への血流が豊富であることは、子宮内膜を厚くし、受精卵が着床しやすい環境を整えるために非常に重要です。
血行が良いことで、子宮や卵巣に必要な栄養素がしっかりと届けられ、機能が活性化されることも、次の妊娠に向けた準備を整える上で有利に働きます。
骨盤周りの筋肉や靭帯に柔軟性が生まれる
出産時、赤ちゃんがスムーズに産道を通れるように、骨盤はホルモンの働きによって大きく開きます。この過程で、骨盤をつなぐ靭帯や周辺の筋肉は一時的に引き伸ばされるため、柔軟性が増すことがあります。
産後、骨盤は時間をかけて元の位置に戻ろうとしますが、完全には戻りきらないこともあり、ある程度の柔軟性が残ることがあります。骨盤周りの柔軟性が維持されることで、骨盤内の血行促進が期待できる場合もあります。血流が改善されることは、子宮や卵巣といった生殖器の健康維持に良い影響を与える可能性があり、健やかな体内環境づくりに貢献することが考えられます。骨盤の回復には個人差があるため、適切なケアが推奨されます。
注意!経産婦でも妊娠しにくい「二人目不妊」の主な原因
経産婦は妊娠しやすいと言われる一方で、二人目の子どもを望んでいるにもかかわらず、なかなか授からない二人目不妊に悩む夫婦は少なくありません。
一人目を問題なく出産できたという経験があるため、原因が分からず不安に感じるケースも多いです。
二人目不妊の背景には、一人目の時とは異なる母体の状況や生活環境の変化が大きく関わっています。
特に、高齢での妊活や育児による影響は無視できません。
第一子の出産時よりも年齢を重ねている
二人目不妊の最も大きな原因として挙げられるのが、加齢です。
一人目を出産してから数年が経過しているため、当然ながら母体もパートナーも年齢を重ねています。
女性の場合、年齢とともに卵子の数は減少し、質も低下していきます。
特に35歳を過ぎると、妊娠率が緩やかに下降し始め、流産率が上昇する傾向が顕著になります。
これは卵子の染色体異常の割合が増えるためです。
一人目をスムーズに授かったとしても、数年後の体の状態は同じではありません。
年齢という要因が、二人目の妊娠において大きなハードルとなるケースは非常に多いのです。
育児による生活習慣の乱れやストレスの増加
一人目の育児は、生活リズムを大きく変化させます。
夜間の授乳や夜泣きによる慢性的な睡眠不足、子どものペースに合わせた不規則な食事、自分の時間を持てないことによる精神的なストレスなどは、ホルモンバランスの乱れを引き起こす原因となります。
ホルモンバランスが乱れると、排卵が不規則になったり、無排卵になったりすることがあり、妊娠の確率を下げてしまいます。
一人目の妊活中は自分の体調管理に集中できましたが、育児をしながらの二人目妊活では、心身ともに疲弊しやすく、妊娠しにくいコンディションに陥りがちです。
前回の出産による母体へのダメージが残っている
出産は、女性の体に大きな負担をかける一大イベントです。
帝王切開による腹部や子宮の傷、会陰切開の痛み、出産による骨盤の歪みなどが、産後も完全に回復していない場合があります。
特に、産後の肥立ちが悪かったり、十分な休養が取れなかったりすると、子宮や卵巣の機能が低下したままになってしまうことも考えられます。
また、出産を機に体重が大幅に増減したり、甲状腺の機能に異常が出たりすることもあります。
これらの前回の出産で受けたダメージが体に残っていると、子宮内環境やホルモンバランスに影響を及ぼし、次の妊娠を妨げる一因となる可能性があります。
パートナー側に不妊の原因があるケース
不妊の原因は女性側だけでなく男性側にも十分に考えられます。
一人目の時は問題がなかったとしてもその後の加齢や生活習慣の変化によってパートナーの精子の状態が悪化していることがあります。
例えば仕事のストレス喫煙過度な飲酒睡眠不足などは精子の数や運動率質を低下させる要因です。
また精索静脈瘤などの病気が隠れている場合もあります。
二人目不妊ではつい女性側の問題と考えがちですが原因の約半数は男性側にもあるとされています。
そのため妊活がうまくいかない場合は夫婦で一緒に原因を探ることが重要です。
二人目を希望する経産婦が妊娠の確率を高めるためにできること
二人目の妊娠を考え始めた経産婦が、その確率を高めるためには、一人目の時とは異なる視点での準備や体調管理が求められます。
育児と両立しながら、自身の体のリズムを把握し、心身ともに健康な状態を保つことが妊活の基本です。
ここでは、日々の生活の中で実践できる具体的な取り組みから、必要に応じて医療機関を頼るタイミングまで、妊娠の可能性を上げるためにできることを紹介します。
基礎体温を記録して自身の排卵日を予測する
産後の体は、月経周期が不安定になることが少なくありません。
まずは基礎体温を毎日記録し、自分の体のリズムを把握することから始めましょう。
基礎体温の変化をグラフにすることで、排卵がきちんと起こっているか、いつ頃排卵しているのかを予測できます。
排卵日を特定できれば、妊娠の可能性が高いタイミングを狙って性交渉を持つことが可能になります。
また、基礎体温のグラフは、黄体機能不全などホルモンバランスの乱れを知る手がかりにもなります。
育児で忙しい中でも、朝目覚めたときに布団の中で測定する習慣をつけることが、効率的な妊活の第一歩です。
栄養バランスの整った食生活を心がける
育児中は、子どもの食事を優先するあまり、自分の食事がおろそかになりがちです。
しかし、健康な母体は妊娠の土台となるため、栄養バランスの取れた食事を意識することが非常に重要です。
特に、体を温める作用のある根菜類や生姜、血液の材料となる鉄分が豊富な赤身の肉や魚、ほうれん草、そして細胞の成長に不可欠なタンパク質や葉酸などを積極的に摂取しましょう。
反対に、体を冷やす冷たい飲み物や、血行を悪くする可能性のあるインスタント食品、カフェインの過剰摂取は控えるのが望ましいです。
規則正しい食生活で、妊娠しやすい体づくりを目指します。
質の良い睡眠を確保してストレスを溜めない
睡眠不足やストレスは、女性ホルモンの分泌をコントロールする脳の視床下部に直接影響を与え、ホルモンバランスの乱れを引き起こします。
これが排卵障害や月経不順の原因となり、妊娠を妨げることにつながります。
育児中は、まとまった睡眠時間を確保するのが難しいかもしれませんが、子どもが昼寝をしている間に一緒に休む、パートナーに育児を任せて一人でリラックスする時間を作るなど、意識的に休息を取る工夫が必要です。
軽いストレッチやウォーキングなどの適度な運動も、血行を促進し、ストレス解消に役立ちます。
心身を健やかに保つことが、妊娠への近道です。
妊活を1年以上続けても授からない場合は婦人科を受診する
セルフケアを続けてもなかなか結果が出ない場合、専門家の助けを借りることを検討しましょう。
一般的に、避妊をせずに定期的な性交渉を1年以上続けても妊娠しない状態を「不妊症」と定義します。
そのため、1年というのが婦人科を受診する一つの目安となります。
ただし、母親の年齢が35歳以上の場合は、卵子の質の低下が急速に進む可能性があるため、半年程度で受診することが推奨されます。
また、一人目の時に不妊治療の経験がある、月経不順や子宮内膜症などの持病があるといった場合は、期間にかかわらず早めに専門医に相談することが望ましいです。
経産婦の妊娠に関するよくある質問
二人目や3人目の妊娠を考える経産婦には、初産の時とは違った疑問や不安が浮かぶものです。
一度経験しているからこその気づきや、体の変化に対する戸惑いもあるかもしれません。
ここでは、経産婦の方が抱きやすい妊娠に関する具体的な質問を取り上げ、Q&A形式で簡潔にお答えします。
つわりや胎動の感じ方の違いから、病院を受診するタイミングまで、気になる点を解消していきましょう。
Q1.経産婦だとつわりや胎動の感じ方に違いはありますか?
個人差が大きいですが、つわりや胎動の感じ方に違いが出ることはあります。
つわりは一人目より軽くなる人もいれば、重くなる人もいて一概には言えません。
一方、胎動は経産婦の方が早く感じやすい傾向にあります。
これは、一度お腹が大きくなったことで腹壁が伸びており、赤ちゃんの小さな動きにも気づきやすいためです。
また、一度経験しているため胎動と腸の動きとの見分けがつきやすいことも理由の一つです。
Q2.二人目不妊かもしれないと感じたら、いつ病院へ行くべきですか?
妊活を始めて1年経っても妊娠しない場合が、病院を受診する一般的な目安です。
ただし、女性の年齢が35歳以上の場合は、妊娠率の低下が考慮されるため、半年を目安に早めに相談することをおすすめします。
さらに40歳以上の方や、一人目の際に不妊治療を経験した方、月経不順などの自覚症状がある場合は、妊活開始と同時に、あるいは期間にかかわらず早めに婦人科を受診するのが望ましいでしょう。
Q3.経産婦は避妊しないとすぐに妊娠する可能性が高いのでしょうか?
すぐに妊娠するとは限りませんが、その可能性は十分にあります。
産後、体の回復が順調で、排卵がスムーズに再開していれば、妊娠しやすい条件が整っている状態です。
月経が再開していなくても、先に排卵が起こっている場合があるため、「生理が来ていないから大丈夫」というわけではありません。
次の妊娠をまだ望んでいない場合は、体の状態にかかわらず、確実な方法で避妊を行う必要があります。
まとめ
一人目の出産を経験した後、二人目の妊娠を希望する際に「二人目不妊」に直面するケースは少なくありません。これは、一人目の出産時よりも年齢を重ねていることによる卵子の質の低下や、育児による生活習慣の乱れなどが原因となることがあります。
二人目の妊娠を希望する場合は、基礎体温の記録や生活習慣の見直しといったセルフケアを行うと共に、年齢などを考慮し、必要であれば早めに婦人科を受診することが、妊娠の確率を高めることにつながります。








