妊娠中は鉄分不足による貧血が懸念されるため、意識的に鉄分を摂取することが推奨されます。
しかし、サプリメントや鉄剤を利用する妊婦の方の中には、かえって鉄分の摂り過ぎを心配する声も少なくありません。
鉄分の過剰摂取は、吐き気や胃の不快感といった症状を引き起こす可能性があります。
この記事では、妊娠中の鉄分摂取の上限量や、摂り過ぎた場合の症状、その対処法について解説します。
妊娠中に鉄分を摂りすぎるとどうなる?赤ちゃんへの影響は?
鉄分を過剰に摂取すると、まずは母体に吐き気や嘔吐、胃痛、下痢、便秘といった消化器系の症状が現れることがあります。
これは、吸収しきれなかった鉄分が胃腸を刺激するために起こります。
継続的に極めて大量の鉄分を摂取し続けた場合、鉄が肝臓などの臓器に蓄積し、機能障害を引き起こすリスクも指摘されています。
ただし、通常の食事やサプリメントの適量摂取でこのような重篤な状態に陥ることはまれです。
胎児への直接的な影響に関する報告は多くありませんが、母体の健康が胎児の健やかな発育に不可欠であるため、過剰摂取は避けるべきです。
【要注意】鉄分の過剰摂取で起こりうる5つの症状
鉄分を一度に大量に摂取したり、継続して摂りすぎたりすると、体に不調が現れる可能性があります。
主な症状としては、吐き気や嘔吐、胃の不快感や胃痛、便秘、下痢といった胃腸障害が挙げられます。
これらは、吸収されなかった鉄分が消化管の粘膜を刺激することで引き起こされます。
これらの症状は、鉄剤を飲み始めたときにも見られる副作用と似ていますが、推奨量を超えて摂取している場合に強く出ることがあります。
また、非常にまれなケースですが、長期にわたる極端な過剰摂取は鉄が内臓に沈着し、肝臓などにダメージを与える鉄過剰症につながる恐れもあります。
もし、これらの症状が見られた場合は、摂取量を見直す必要があるかもしれません。
サプリの自己判断による過剰摂取が最も危険
通常の食事だけで鉄分が過剰になることは、吸収率が調整されるため、ほとんどありません。
過剰摂取のリスクが最も高まるのは、サプリメントや鉄剤の不適切な使用によるものです。
例えば、貧血の診断を受けていないにもかかわらず自己判断で高容量の鉄サプリを摂取したり、複数のサプリメントを併用して成分が重複していることに気づかなかったりするケースが考えられます。
特に、医師から処方された鉄剤を服用しながら、市販のマルチビタミンや鉄サプリを併用すると、意図せず耐容上限量を大幅に超えてしまう可能性があります。
サプリメントを利用する際は、必ず記載された用量を守り、複数の製品を飲む場合は成分表示を確認することが重要です。
【1日何mgまで?】妊娠中の鉄分摂取量の上限を時期別に解説
妊娠中は鉄分の必要量が増加しますが、無制限に摂取して良いわけではありません。
健康への悪影響を避けるため、1日あたりの摂取量の上限である「耐容上限量」が定められており、例えば米国医学研究所によると妊娠中の鉄分の耐容上限量は1日45mgとされています。
特に鉄分の需要が高まる妊娠中期から妊娠後期にかけては、貧血予防のためにサプリメントを利用する人も増えますが、食事からの摂取量と合わせてこの上限を超えないように注意することが求められます。
自分の年齢や妊娠時期に応じた適切な摂取量と上限量を把握し、安全に鉄分を補給しましょう。
妊娠初期・中期・後期の耐容上限量とは
耐容上限量とは、特定の栄養素を習慣的に摂取しても、健康に悪影響を及ぼすリスクがないと判断される上限の量のことです。この量を超えて摂取し続けると、過剰摂取による健康障害の可能性が高まります。
鉄分の場合、妊娠期間を通じて耐容上限量が設定されています。複数の情報源によると、妊婦の鉄分の耐容上限量は一般的に1日40mgまたは45mgとされていますが、妊娠の時期によってこの上限値が変動するという明確な記載は見当たりません。日本の厚生労働省の資料では、妊娠中の鉄分の推奨摂取量は時期によって変わるものの、耐容上限量が妊娠初期、中期、後期で異なるとは明記されていません。アメリカ医学研究所(IOM)では妊娠中の鉄分の耐容上限量を1日45mgとしており、これは特定の期間に限定されていないと解釈できます。
特に、つわりが落ち着き、胎児の成長が著しい中期以降は鉄分の必要性が増すため、サプリメントなどで補う機会も増えますが、その際もこの上限値を意識して、食事とサプリメントを合わせた総摂取量を管理する必要があります。
年代別の鉄分摂取上限量の目安
厚生労働省が定める「日本人の食事摂取基準(2020年版)」によると、妊娠中の女性における鉄分の耐容上限量は、18歳から29歳、30歳から49歳のいずれの年代でも1日あたり40mgとされています。
この数値は、通常の食事から摂取する鉄分と、サプリメントや鉄剤で補う鉄分の両方を合計した量の上限です。例えば、食事から平均的に10mgの鉄分を摂取している場合、サプリメントで追加できるのは30mgまでが目安となります。市販のサプリメントには1粒で10mg以上の鉄分を含むものも多いため、複数の製品を併用する際は、合計量がこの40mgを超えないように成分表示を必ず確認することが求められます。
鉄分の過剰摂取はなぜ起こる?主な原因を解説
妊娠中の鉄分過剰摂取は、ほとんどの場合、意図せず起こってしまいます。
その主な原因は、鉄分を含む複数の製品を同時に使用することによる「成分の重複」です。
貧血を気にするあまり、良かれと思って取り入れたサプリメントや食品が、結果として過剰摂取につながるケースが多く見られます。
特に、病院で処方された薬と市販のサプリメントを自己判断で併用してしまう場合や、複数のサプリメントに鉄分が含まれていることに気づかない場合に起こりやすいです。
原因①:処方された鉄剤とサプリの飲み合わせ
妊娠中に貧血と診断されると、治療のために医師から鉄剤が処方されることがあります。
この処方される鉄剤は、市販のサプリメントよりも多くの鉄分を含んでいます。
その鉄剤を服用しているにもかかわらず、自己判断で市販の鉄サプリや、鉄分が添加されたマルチビタミンなどを併用してしまうと、1日の耐容上限量を簡単に超えてしまう危険性があります。
医師は食事からの摂取も考慮した上で適切な量の鉄剤を処方しているため、他のサプリメントを追加したい場合は、必ず事前にかかりつけの医師や薬剤師に相談し、飲み合わせに問題がないか確認を取るべきです。
原因②:複数のサプリメントの成分重複
鉄分の過剰摂取は、鉄単体のサプリメントだけでなく、他の目的で摂取しているサプリメントとの組み合わせによっても起こりえます。
例えば、妊娠中に推奨される葉酸サプリの多くには、鉄分も一緒に配合されています。
これに加えて、美容や健康目的で別のマルチビタミンやミネラルのサプリを飲んでいる場合、そちらにも鉄分が含まれていると、知らず知らずのうちに鉄分を二重、三重に摂取してしまうことになります。
サプリメントを利用する際は、ひとつひとつの製品の成分表示をよく確認し、自分が摂取する栄養素の総量を把握する習慣をつけることが過剰摂取を防ぐ上で不可欠です。
食事だけで鉄分を摂りすぎる心配はほとんどない
鉄分の過剰摂取が問題となるのは、主にサプリメントや鉄剤によるものであり、通常の食生活を送っている健康な人が食事だけで鉄分を摂りすぎる心配はほとんどありません。
体には鉄分の吸収を調節する機能が備わっており、体内の鉄分が足りているときは、食事に含まれる鉄、特に野菜や穀類に多い非ヘム鉄の吸収率が自然と低くなるためです。
そのため、ほうれん草やひじきなど鉄分が豊富とされる食品を積極的に食べたとしても、それが直接的に過剰摂取につながる可能性は極めて低いと言えます。
レバーなど特定の食品の食べ過ぎには注意が必要
食事からの鉄分過剰摂取は基本的に心配ありませんが、特定の食品の食べ過ぎには注意が必要です。
代表的なものがレバーです。
レバーは鉄分が非常に豊富な食材ですが、同時にビタミンAも多く含んでいます。
妊娠初期にビタミンAを過剰摂取すると、胎児の奇形のリスクが高まることが知られています。
そのため、鉄分補給のつもりでレバーを頻繁に食べることは推奨されません。
どうしても食べたい場合は、焼き鳥1本程度など少量にとどめ、継続的な摂取は避けるようにしましょう。
鉄分補給は、レバーのような特定の食品に偏るのではなく、赤身の肉や魚、大豆製品、緑黄色野菜など、さまざまな食品からバランス良く摂ることを心がけてください。
鉄分の吸収を助ける栄養素と妨げる栄養素
効率良く鉄分を摂取するためには、吸収率を意識した食事の組み合わせが効果的です。
鉄分の吸収を助ける代表的な栄養素は、ビタミンCと動物性たんぱく質です。
野菜や果物に含まれるビタミンCは、植物性食品に含まれる非ヘム鉄を体に吸収されやすい形に変える働きがあります。
また、肉や魚に含まれる動物性たんぱく質も鉄の吸収を促進します。
一方で、鉄の吸収を妨げる成分も存在します。
コーヒーや紅茶、緑茶に含まれるタンニン、玄米や豆類に多いフィチン酸、加工食品に添加されるリン酸塩などは、鉄と結合して吸収を阻害するため、食事中や食後すぐの摂取は避けるのが望ましいです。
鉄分を摂りすぎたかも?と感じたときの対処法
サプリメントを間違えて多く飲んでしまった、胃のむかつきが続くけど、鉄分の摂りすぎかもしれないなどと不安に感じた場合、まずは落ち着いて行動することが重要です。
自己判断で対応するのではなく、正しい情報を基に適切な手順を踏むことで、不要な心配を減らし、母体と赤ちゃんの健康を守ることにつながります。
ここでは、過剰摂取が疑われる際に取るべき具体的な行動を解説します。
まずはかかりつけの医師や薬剤師に相談する
鉄分の過剰摂取が疑われる症状(吐き気、胃痛、下痢など)が現れたり、誤ってサプリメントや鉄剤を多量に服用してしまったりした場合は、迷わずかかりつけの産婦人科医や薬剤師に相談してください。
その際には、いつ、どの製品を、どのくらいの量摂取したのかを具体的に伝えることが重要です。
服用しているサプリメントのパッケージを持参すると、成分量が正確に伝わり、より的確なアドバイスを受けやすくなります。
専門家に相談することで、現在の症状が過剰摂取によるものか、あるいは他の原因があるのかを判断してもらい、適切な指示を仰ぐことができます。
自己判断でサプリや鉄剤の服用を中止しない
鉄分の摂りすぎを心配するあまり、自己判断で服用中のサプリメントや鉄剤を完全にやめてしまうことは避けるべきです。
特に、医師から貧血治療のために処方されている鉄剤の場合、中断してしまうと貧血が悪化し、母体のめまいや倦怠感、胎児の発育への影響など、より深刻な問題を引き起こす可能性があります。
鉄分は妊娠中の母体と赤ちゃんにとって不可欠な栄養素です。
摂取量に不安がある場合でも、まずは医師や薬剤師に相談し、その指示に従って服用量の調整や継続の可否を判断するようにしてください。
妊娠中の鉄分に関するよくある質問
ここでは妊娠中の鉄分摂取に関して、多くの妊婦さんが疑問に思う点や不安に感じることをQ&A形式でまとめました。
サプリメントと食事の考え方や、鉄剤服用時の体の変化など、具体的な疑問への回答を通じて、日々のセルフケアに役立つ情報を提供します。
これらの知識を持つことで、より安心して鉄分と向き合うことができるようになります。
Q1.サプリと食事の鉄分は合算して考えるべき?
はい、合算して考える必要があります。
1日の耐容上限量(40mg)は、食事から摂る鉄分と、サプリメントや鉄剤で補う鉄分を合わせた総量に対して設定されています。
サプリメントを利用する際は、日々の食事内容を考慮に入れ、合計で上限を超えないように注意しましょう。
Q2.鉄剤を飲んで便が黒くなったけど過剰摂取のサイン?
これは過剰摂取のサインではありません。
鉄剤を服用すると、体内で吸収されなかった鉄分が酸化し、便に混ざって排出されるために便が黒っぽくなることがあります。
これは鉄剤の服用による正常な反応であり、薬が効いている証拠でもありますので、心配する必要はありません。
Q3.鉄分不足と摂りすぎ、どちらがより問題ですか?
妊娠中においては、鉄分不足の方がより深刻な問題となりやすいです。
鉄分が不足して貧血になると、母体のめまいや動悸、倦怠感だけでなく、早産や低出生体重児のリスクが高まることが指摘されています。
過剰摂取も避けるべきですが、まずは推奨量を満たして貧血を予防することが優先されます。
まとめ:妊娠中の鉄分は上限量を守り正しく摂取することが大切
妊娠中の鉄分は、不足すると母体や胎児に影響を及ぼす可能性がある一方で、サプリメントの利用法によっては過剰摂取のリスクも伴います。
過剰摂取の主な原因は、処方薬と市販サプリの併用や、複数の製品による意図しない成分重複です。
通常の食事で上限を超える心配はほとんどありませんが、自身の年齢に応じた1日の耐容上限量(40mg)を把握し、食事とサプリメントを合わせた総量を管理することが求められます。
体調に異変を感じたり摂取量に不安がある場合は、自己判断で服用を中止・変更せず、必ずかかりつけの医師や薬剤師に相談して指示を仰ぎましょう。








