妊娠初期は、お腹の赤ちゃんの成長にとって非常に大切な時期ですが、流産のリスクも高く、不安を感じやすい時期でもあります。
特定の行動が直接流産の原因になることは少ないとされていますが、妊娠中の母子の健康を守るためには、避けるべき行動や注意点を知っておくことが重要です。
この記事では、妊娠初期に流産のリスクを避けるために気をつけたい具体的な行動や食事、そして気になる症状について詳しく解説します。
はじめに:妊娠初期の流産は、お母さんの行動が原因ではないことがほとんどです
妊娠初期に起こる流産(妊娠12週未満)の多くは、お母さんの行動や生活習慣が原因ではありません。
その原因の約80%は、胎児の染色体異常など、受精卵の段階で生じた偶発的な異常によるものとされています。
この種の流産は、誰にでも起こりうるものであり、お母さんが「あの時こうしていれば」と自分を責める必要は全くありません。
仕事や運動が原因で流産することは、医学的にはほとんどないと考えられています。
しかし、だからといって何をしても良いわけではなく、赤ちゃんの健やかな発育環境を整えるために、リスクとなりうる行動を避けることは大切です。
まずは正しい知識を身につけ、過度に心配せず、穏やかな気持ちで過ごすことを心がけましょう。
【リスト】流産のリスクを避けるために妊娠初期に気をつけたい8つの行動
妊娠初期の流産の多くは母体の行動が原因ではないものの、赤ちゃんの健康な発育のために避けるべき行動はいくつか存在します。
これから紹介する8つの行動は、流産のリスクを直接的に高めるというよりは、胎児への悪影響や妊娠継続におけるリスクを増加させる可能性があるものです。
これらの行動を理解し、日々の生活で意識することが、母体と赤ちゃんの安全につながります。
ご自身の生活習慣を見直し、できることから取り入れていきましょう。
①自己判断で市販薬や処方薬を服用すること
妊娠中に自己判断で薬を服用することは、胎児に影響を及ぼす可能性があるため避けるべきです。
特に妊娠4週から12週頃は、赤ちゃんの重要な器官が形成される大切な時期であり、薬の成分が発達に影響を与えることがあります。
頭痛や風邪などの症状があっても、安易に市販薬を使用せず、必ずかかりつけの産婦人科医に相談してください。
また、妊娠前から常用している薬がある場合も、妊娠がわかった時点で医師や薬剤師に伝え、継続の可否や種類の変更について指示を仰ぐ必要があります。
持病の治療などで薬が必要な場合も、安全に使用できる薬を処方してもらえるため、まずは専門家に相談することが不可欠です。
②アルコールが含まれる飲み物を飲むこと(飲酒)
妊娠中の飲酒は、胎児の発育に深刻な影響を及ぼす「胎児性アルコール・スペクトラム障害」を引き起こすリスクがあるため、絶対に避けるべきです。
アルコールは胎盤を通じて容易に赤ちゃんに移行し、脳の発達障害や顔面の奇形、成長の遅れなどの原因となります。
妊娠のどの時期においても、安全とされるアルコールの量は確立されていません。
そのため、妊娠が判明した時点から、たとえ少量であってもアルコールを摂取するのはやめる必要があります。
「少しだけなら大丈夫」といった考えは持たず、ノンアルコール飲料で代用するなどして、完全な禁酒を徹底しましょう。
③タバコを吸うこと(喫煙・受動喫煙を含む)
妊娠中の喫煙は流産や早産、低出生体重児のリスクを有意に高めるため、直ちにやめるべきです。
タバコに含まれるニコチンは血管を収縮させ、子宮や胎盤への血流を減少させます。
また、一酸化炭素は血液中の酸素を運ぶ能力を低下させるため、赤ちゃんが十分な酸素や栄養を受け取れなくなる原因となります。
これは自分で吸うだけでなく、家族など周りの人が吸うタバコの煙を吸い込む「受動喫煙」でも同様のリスクが生じます。
赤ちゃんの健やかな成長のためには、妊婦さん自身の禁煙はもちろん、家族や周囲の人々の理解と協力を得て、受動喫煙のない環境を整えることが非常に重要です。
④カフェインを過剰に摂取すること
妊娠中にカフェインを過剰に摂取すると、流産のリスクを高めたり、胎児の発育に影響を与えたりする可能性があると指摘されています。
カフェインは胎盤を通過して赤ちゃんに移行しますが、赤ちゃんはカフェインを分解する能力が未熟なため、体内に長く留まってしまいます。
世界保健機関(WHO)では、妊婦の1日あたりのカフェイン摂取量を300mgまでとしていますが、より厳しい基準を設けている国もあり、日本では200mg程度を目安にすると安心です。
コーヒーだけでなく、紅茶、緑茶、エナジードリンクなどにもカフェインは含まれるため、成分表示を確認し、デカフェ(カフェインレス)の飲み物を選ぶなどの工夫をしましょう。
⑤体に強い負荷がかかる激しい運動
妊娠初期はつわりなどで体調が不安定な上、流産のリスクも高い時期であるため、体に強い負荷がかかる激しい運動は避けるべきです。
ジョギングやジャンプを伴うスポーツ、激しい筋力トレーニングなどは、子宮収縮を促したり、転倒してお腹を打ったりする危険性があります。
ただし、運動を完全にやめる必要はなく、むしろ適度な運動は体重管理や気分のリフレッシュに効果的です。
医師の許可を得た上で、ウォーキングやマタニティスイミング、ヨガなど、体に負担の少ない運動を無理のない範囲で行うのがよいでしょう。
少しでもお腹の張りや痛みを感じた場合は、すぐに運動を中止して休むことが重要です。
⑥重い物を持つ、または長時間立ち続けること
重い物を持つ行為や長時間立ち続けることは、腹圧をかけ、お腹の張りや子宮収縮を引き起こす可能性があります。
妊娠中は骨盤周りの靭帯が緩んでいるため、腰痛の原因にもなりかねません。
特に、立ち仕事が多い場合や、上の子の抱っこなどで重いものを持つ機会が多い方は注意が必要です。
仕事で避けられない場合は、上司に相談して業務内容を調整してもらったり、休憩をこまめに取ったりするなどの対策を検討しましょう。
母性健康管理指導事項連絡カード(母健連絡カード)を医師に記入してもらい、職場に提出することで、適切な配慮を受けやすくなります。
無理をせず、周囲の協力を得ながら体に負担をかけない生活を心がけてください。
⑦過度なダイエットや偏った食生活
妊娠初期は、赤ちゃんの脳や神経管など、重要な器官が作られる非常に大切な時期です。
この時期に過度なダイエットを行うと、赤ちゃんの発育に必要な栄養素が不足し、深刻な影響を及ぼす可能性があります。
特に、神経管閉鎖障害のリスクを低減する「葉酸」は、妊娠前から積極的に摂取することが推奨されています。
つわりで食欲がない場合でも、特定の食品だけを食べるような偏った食生活は避け、食べられるものを少しずつでも口にするように工夫しましょう。
体重増加を気にして極端に食事を制限するのではなく、バランスの取れた食事を心がけ、赤ちゃんの成長に必要な栄養をしっかりと届けることが重要です。
⑧感染症のリスクがある性行為
妊娠中の性行為が直接流産の原因になることはありませんが、感染症には注意が必要です。
クラミジアや淋菌などの性感染症にかかると、子宮頸管や卵膜に炎症が起こり、前期破水や早産のリスクが高まることがあります。
また、膣内の常在菌のバランスが崩れることで細菌性膣症を発症し、絨毛膜羊膜炎を引き起こして流産・早産につながるケースも報告されています。
妊娠中は免疫力が低下しやすいため、パートナーも清潔を保ち、必ずコンドームを使用するなど、感染予防を徹底することが大切です。
お腹の張りや痛み、出血がある場合は、性行為は控えるようにしましょう。
妊娠初期の食事で特に注意したい食べ物・飲み物
妊娠初期は、普段何気なく口にしている食べ物や飲み物にも注意が必要です。
特に、食中毒を引き起こす可能性のあるものや、特定の栄養素を過剰に摂取してしまう恐れのある食品は、胎児に悪影響を及ぼすリスクがあります。
これから具体的に挙げる食品を参考に、安全でバランスの取れた食生活を送りましょう。
正しい知識を持つことで、食に関する不安を減らし、安心してマタニティライフを楽しむことができます。
食中毒の危険があるナチュラルチーズや生ハム、生卵
妊娠中は免疫力が低下するため、通常よりも食中毒にかかりやすくなります。
特に注意が必要なのが、リステリア菌、トキソプラズマ、サルモネラ菌です。
リステリア菌は加熱殺菌されていないナチュラルチーズや生ハム、スモークサーモンなどに、トキソプラズマは加熱が不十分な肉(レアステーキやユッケなど)に潜んでいる可能性があります。
これらの菌は胎盤を通じて赤ちゃんに感染し、流産や深刻な障害を引き起こすことがあるため、食品は中心部まで十分に加熱してから食べることが重要です。
また、サルモネラ菌の感染源となる生卵や、卵が半熟状態の料理も避けるようにしましょう。
水銀を多く含むマグロなどの大型の魚
魚は良質なたんぱく質やDHAなど、妊娠中に有益な栄養素を多く含んでいますが、一部の大型魚には注意が必要です。
食物連鎖の上位に位置するマグロ、キンメダイ、メカジキなどは、体内に自然界の「メチル水銀」を多く蓄積している傾向があります。
このメチル水銀を妊婦が過剰に摂取すると、胎盤を通じて赤ちゃんの体内に取り込まれ、中枢神経系の発達に影響を及ぼす可能性があるとされています。
厚生労働省は、これらの魚の摂取量について週に1回(約80g)までという目安を提示しています。
サケやアジ、イワシ、サンマなどは水銀含有量が少ないため、魚の種類を選んでバランス良く食事に取り入れることが推奨されます。
ビタミンAの摂りすぎになる可能性のあるレバー
ビタミンAは皮膚や粘膜の健康維持に欠かせない栄養素ですが、妊娠初期に動物性のビタミンA(レチノール)を過剰に摂取すると、胎児の耳や顔の形態異常(奇形)のリスクが高まることが報告されています。
ビタミンAは特に、うなぎや豚・鶏のレバーに多く含まれているため、これらの食品を習慣的に食べるのは避けたほうがよいでしょう。
厚生労働省は、妊娠初期の女性のビタミンA摂取量の上限を1日2,700μgRAEと定めています。
一方で、にんじんやかぼちゃなどの緑黄色野菜に含まれるβ-カロテンは、体内で必要な分だけビタミンAに変換されるため、過剰摂取の心配はありません。
野菜からビタミンを摂ることを心がけましょう。
もしかして流産のサイン?病院へ相談すべき症状
妊娠初期は、着床出血や子宮が大きくなることによる下腹部痛など、さまざまな身体の変化が起こります。
その多くは妊娠に伴う生理的なものですが、中には流産の兆候である可能性も否定できません。
特に、いつもと違う出血や、我慢できないほどの強い腹痛は注意が必要です。
自己判断で様子を見るのではなく、不安な症状があれば速やかにかかりつけの産婦人科に連絡し、指示を仰ぐことが重要です。
早期に受診することで、適切な処置を受けられる場合があります。
いつもと違う出血が見られる(鮮血・茶色いおりもの)
妊娠初期の出血は必ずしも流産の兆候とは限りません。
受精卵が子宮内膜に着床する際に起こる「着床出血」や、子宮頸管ポリープからの出血など、心配のないケースもあります。
しかし、鮮血が出る場合や、生理の時のような出血量が多い場合、腹痛を伴う出血は切迫流産の可能性があります。
また、少量でも出血がだらだらと続く場合や、茶色いおりものが数日続く場合も注意が必要です。
出血の色や量、腹痛の有無などを正確に記録し、すぐに医療機関に電話で相談して、受診の必要性を確認してください。
生理痛よりも重い下腹部痛が続く
妊娠初期には、子宮が大きくなる過程で靭帯が引っ張られ、生理痛に似た下腹部痛を感じることがあります。
しかし、その痛みがいつもより強く、我慢できないほどであったり、キューッと差し込むような痛みが周期的・規則的に続いたりする場合は注意が必要です。特に出血を伴う強い下腹部痛は、流産が進行しているサインかもしれません。安静にしていても痛みが治まらない、どんどん強くなるという場合は、夜間や休日であっても、すぐにかかりつけの産婦人科に連絡してください。痛みの種類や強さ、頻度を伝えることで、医師が状況を判断しやすくなります。
妊娠初期の行動に関するよくある質問
妊娠がわかると、日々のささいな行動一つひとつに不安を感じることが増えます。
特に、妊娠に気づく前の行動や、上の子のお世話、通勤方法など、日常生活に密着した疑問は尽きないものです。
ここでは、多くの妊婦さんが抱える妊娠初期の行動に関するよくある質問について、簡潔に回答します。
正しい情報を知ることで、過度な心配を減らし、安心して過ごすための一助となれば幸いです。
Q1. 妊娠に気づく前に、お酒を飲んでしまいました。赤ちゃんへの影響はありますか?
妊娠超初期(最終月経開始日から4週末満)の飲酒は、胎児の重要な器官が形成される前であるため、影響はほとんどないとされています。
多くの場合は心配ありませんが、妊娠がわかった時点ですぐに禁酒することが何よりも大切です。
不安な場合は、健診の際に医師に相談しましょう。
Q2. 上の子がいるのですが、抱っこしても大丈夫でしょうか?
お腹に強い圧力がかからないように注意すれば、短時間の抱っこは問題ないことが多いです。
ただし、お腹の張りや痛みを感じる場合は無理をしないでください。
重いものを長時間持つことは避け、できるだけ座って抱っこするなど、体に負担がかからない方法を工夫することが大切です。
Q3. 通勤で自転車に乗るのはやめたほうがいいですか?
転倒のリスクや、路面からの振動が子宮収縮を招く可能性があるため、妊娠中の自転車利用は推奨されません。
特につわりなどで体調が不安定な妊娠初期は、バランスを崩しやすくなります。
可能な限り、電車やバスなど他の交通手段を検討するのが望ましいでしょう。
まとめ
妊娠初期の流産の多くは胎児の染色体異常が原因であり、お母さんの行動が直接の原因になることは稀です。
そのため、過度に自分を責める必要はありません。
しかし、赤ちゃんの健やかな発育環境を整えるために、アルコールや喫煙、自己判断での服薬、感染症のリスクがある食べ物など、避けるべきことは確かに存在します。
本記事で紹介した内容を参考に、ご自身の生活を見直し、体に負担をかけない穏やかな生活を心がけてください。
不安な症状や疑問がある場合は、一人で抱え込まず、かかりつけの医師や助産師に相談することが大切です。








