体外受精の過程で妊娠判定が陽性となった後の化学流産は、期待が大きいだけに精神的な負担も大きい出来事です。
この経験は不妊治療を受ける多くの方が直面する可能性があり、その原因や確率、身体に現れる症状について正確な情報を求めるのは当然のことです。
また、化学流産後の過ごし方や、次の移植に向けていつから準備を再開できるのかという見通しを知ることは、前向きな気持ちで不妊治療を続けるために不可欠です。
この記事では、体外受精における化学流産の医学的な側面と、次のステップについて解説します。
化学流産とは?着床はしたけれど妊娠が継続しなかった状態
化学流産とは、体外受精で移植した胚が子宮内膜に着床し、妊娠検査薬で陽性反応が出るものの、その後の成長が続かずに超音波検査で胎嚢が確認できる前に妊娠が終了してしまう状態を指します。
医学的には「生化学的妊娠」とも呼ばれます。
着床によって分泌されるhCGというホルモンに体が反応するため、一時的に妊娠した状態にはなりますが、残念ながら赤ちゃんの袋である胎嚢が育つまでには至らなかったケースです。
通常の妊娠(臨床妊娠)との医学的な違い
化学流産と通常の妊娠(臨床妊娠)を分ける医学的な基準は、超音波検査による「胎嚢の確認」です。
妊娠検査薬で陽性反応が出ても、胎嚢が確認できなければ化学流産と診断されます。
一方で、胎嚢が確認された後に妊娠が継続しなくなった場合は「臨床的流産」として区別されます。
化学流産は、着床という妊娠の第一歩はクリアしたものの、発育が続かなかった極めて初期の段階での妊娠中断です。
そのため、医学的には流産の回数にカウントされないことが一般的であり、不育症の診断基準にも通常は含まれません。
体外受精で化学流産が起こる主な原因は受精卵側にあります
体外受精で化学流産を経験すると、「自分の行動に何か問題があったのではないか」とご自身を責めてしまう方が少なくありません。
しかし、化学流産の主な原因は母体側ではなく、移植した受精卵(胚)そのものにあることがほとんどです。
妊娠が継続できなかったのは、決してあなたのせいではありません。
医学的な見地から、その原因を正しく理解することは、心の負担を軽減し、次の治療へと前向きに進むために非常に重要です。
原因のほとんどは受精卵の染色体異常によるもの
化学流産が起こる原因の大部分は、受精卵そのものが持つ染色体の数や構造の異常によるものと考えられています。
これは受精の段階で偶然発生するもので、誰にでも起こりうることです。
受精卵は細胞分裂を繰り返して成長しますが、染色体に異常があると、ある段階でそれ以上成長できなくなります。
その結果、着床はしたものの発育が途中で止まってしまい、化学流産に至ります。
これは、いわば自然淘汰の仕組みの一つであり、妊娠を継続するのが難しい受精卵が早い段階で成長を止める現象と理解されています。
お母さんの生活習慣や行動が直接の原因ではありません
胚移植後に「仕事で無理をしてしまった」「安静にしていなかった」など、ご自身の生活習慣や行動を化学流産の原因と考えてしまう方が多くいます。
しかし、医学的には、これらの行動が化学流産の直接的な原因となることは極めて稀です。
前述の通り、原因の多くは受精卵の染色体異常であり、これは移植前の段階で決まっていることがほとんどです。
もちろん、心身の健康を保つことは妊娠にとって大切ですが、特定の行動が化学流産を引き起こしたわけではないことを理解し、ご自身を責める必要はありません。
体外受精における化学流産の発生確率と時期の目安
体外受精において、化学流産は決して珍しいことではありません。
妊娠判定で陽性が出た後に、一定の確率で起こり得るとされています。
具体的にどのくらいの頻度で、そして妊娠週数でいうとどの時期に起こりやすいのかを知ることは、ご自身の状況を客観的に理解する助けになります。
一般的に、胎嚢が確認できるようになる妊娠5週から6週よりも前の、ごく初期の段階で妊娠の継続が難しくなるケースが化学流産にあたります。
化学流産はどのくらいの頻度で起こるのか
体外受精の治療周期において、妊娠判定で陽性となった人のうち、約20〜30%の割合で化学流産が起こると報告されています。
この数値はクリニックや患者の年齢によって多少変動しますが、決して稀なことではなく、不妊治療の過程で多くの人が経験する可能性があることを示しています。
確率を知ることで、自分だけが特別な状況にあるわけではないと理解でき、過度な不安を和らげることができます。
化学流産は、妊娠成立に向けたプロセスの中で起こり得る一つの出来事として捉えることが重要です。
化学流産が起こりやすいのは移植後1~2週間ごろ
体外受精における化学流産は、胚移植後1〜2週間ごろ、妊娠週数でいうと妊娠4週から妊娠5週にかけての時期に起こりやすいとされています。
胚移植後に着床が成立すると、hCGホルモンが分泌され始め、妊娠検査薬が陽性になります。
これがちょうど妊娠4週にあたります。
しかし、受精卵の成長がそこで止まってしまうと、胎嚢が確認できる妊娠5週を迎える前に発育が中断し、化学流産となります。
そのため、妊娠判定で陽性が出た直後のこの期間が、妊娠が継続できるかどうかの重要な時期になります。
化学流産のサインとして現れる具体的な症状
化学流産が起こる際、身体にはいくつかの変化が兆候として現れることがあります。
ただし、症状の現れ方には個人差が大きく、全く自覚症状がないまま次の生理を迎える人もいます。
これから自分の体に何が起こるのかをあらかじめ知っておくことは、心の準備につながります。
代表的な症状としては、出血や下腹部痛、基礎体温の変化などが挙げられますが、これらが必ずしもすべての人に現れるわけではありません。
いつもより重い生理のような出血がみられる
化学流産の最も一般的な症状は、生理様の出血です。
この出血は、通常の生理予定日より数日遅れて始まることが多く、量や期間に特徴が見られる場合があります。
普段の生理よりも出血量が多かったり、鮮血やレバーのような血の塊が混じったりすることがあります。
また、出血が普段より長く続くことも珍しくありません。
一方で、出血量や期間が通常の生理とほとんど変わらないため、化学流産に気づかずに過ごしてしまうケースもあります。
出血の状態には個人差が大きいのが特徴です。
下腹部痛や腰痛を伴うケースもある
化学流産が起こる際には、出血とともに下腹部痛や腰痛を感じることがあります。
痛みの感じ方は人それぞれで、普段の生理痛と同じくらいの鈍痛を感じる人もいれば、それよりも重い痛みや腰がだるいような感覚を覚える人もいます。
これは、妊娠が継続しなくなったことで子宮が収縮し、厚くなった子宮内膜を排出しようとするために起こる痛みです。
ただし、痛みには個人差が大きく、全く痛みを感じないまま出血が始まる人も少なくありません。
症状が強い場合は、医療機関に相談しましょう。
基礎体温が下がり始めることが多い
妊娠が成立すると、女性ホルモンであるプロゲステロンの分泌が続くため、基礎体温は高温期を維持します。
しかし、化学流産によって妊娠の継続が中断されると、hCGホルモンの分泌が止まり、それに伴ってプロゲステロンの分泌も低下します。
その結果、維持されていた高温期が終わり、基礎体温は徐々に低下して低温期へと移行していきます。
基礎体温を毎日測定している場合、妊娠判定で陽性が出た後に体温が下がり始めたら、化学流産の兆候である可能性があります。
化学流産と診断された後の過ごし方と身体の変化
化学流産と診断された後は、心身ともに休養が必要です。
特に精神的なショックが大きい時期ですが、身体に起こる変化を理解し、適切に対処することが大切です。
化学流産後は、特別な医療処置を必要としないことがほとんどで、自然な身体の変化を見守ることになります。
この期間をどう過ごすか、そしてどのような身体の変化が起こりうるのかを知っておくことで、落ち着いて次のステップに進む準備ができます。
妊娠検査薬で陽性反応がいつまで続くかの目安
化学流産後も、体内にhCGホルモンが残っている間は市販の妊娠検査薬で陽性反応が出続けることがあります。
hCGホルモンが体から完全に排出されるまでには時間がかかるため、出血が始まった後でも数日から1週間程度は薄い陽性反応を示す場合があります。
しかし、妊娠は継続していないため、hCGの数値は日に日に低下していきます。
そのため、検査薬の反応も徐々に薄くなり、最終的には陰性になります。
陽性反応が続くことで不安になるかもしれませんが、これは正常な経過の一つです。
診断後は特別な処置は不要で、自然な生理を待ちます
化学流産は、超音波で胎嚢が確認される前の極めて初期の段階で妊娠が中断した状態であるため、子宮内容除去術(掻爬手術)などの特別な外科的処置は通常必要ありません。
診断後は、自然に生理が来るのを待つのが一般的な対応となります。
化学流産に伴う出血は、厚くなった子宮内膜が剥がれ落ちることで起こるため、これが終われば子宮の中はきれいな状態に戻ります。
次の治療に向けて、まずは心と体を休ませ、自然な月経周期が回復するのを見守ることが大切です。
化学流産を乗り越え、次の不妊治療に進むために
化学流産は非常につらい経験ですが、この事実を乗り越えて次の不妊治療へと進むためには、医学的な意味を正しく理解し、前向きな視点を持つことが助けになります。
悲しむ時間は必要ですが、同時に、この経験が次の妊娠への重要な一歩であると捉えることも可能です。
身体と心の回復を待ちながら、医師と相談し、次の治療計画を立てていくことが、未来の妊娠へとつながる道筋となります。
化学流産は着床できる体である証拠と捉えよう
化学流産は妊娠が継続しなかったという悲しい結果ですが、医学的な観点から見ると、決して悪い側面だけではありません。
この経験は、移植した胚が子宮内膜に着床する能力があること、そして母体側がそれを受け入れる準備ができていたことの証明になります。
不妊治療において「着床」は非常に重要なステップであり、着床障害に悩む方も少なくありません。
したがって、化学流産は「着床できる身体である」というポジティブな証拠と捉えることができます。
この事実は、次回の移植における大きな希望となります。
次回の移植はいつから再開できる?医師との相談が重要
化学流産の後、次の胚移植をいつから再開できるかは、多くの方が気になる点です。再開時期は個々の状況により異なりますが、次の生理を1回待ってから推奨されることが多いです。しかし、子宮の状態が良好であれば次の周期に移植することも可能とされています。以前は間隔を空けることが推奨されていましたが、最近の文献では間隔を空けなくても妊娠率に影響がないことが示されています。
これは、ホルモンバランスや子宮内膜の状態が正常なサイクルに戻るのを待つためです。ただし、最適な再開時期は、個々の身体の回復状況や精神的な状態によって異なります。焦らず、必ず担当の医師と十分に相談し、心身ともに準備が整った状態で次の移植に臨むことが重要です。
化学流産を繰り返す場合は不育症の可能性も
化学流産を一度経験することは珍しくありませんが、もし繰り返し経験する場合は、背景に何らかの原因が隠れている可能性も考えられます。
このような反復性の流産は、不育症と関連している場合があるため、医療機関に相談することが推奨されます。
不育症の検査対象は、一般的に超音波検査で胎嚢が確認された流産を繰り返す場合です。しかし、化学流産を繰り返すことが不育症の原因を見つけるヒントになる可能性もあるため、医師に伝えることは推奨されています。不育症の原因には、夫婦どちらかの染色体異常、子宮の形態異常、甲状腺機能や血液凝固系の異常など、さまざまな要因が考えられます。
化学流産を繰り返す場合には、一度専門の医療機関で不育症に関する検査について相談し、必要に応じて原因を特定することが、次の妊娠への近道となる可能性があります。
体外受精の化学流産に関するよくある質問
体外受精の過程で化学流産を経験すると、さまざまな疑問や不安が浮かんでくるものです。
ここでは、多くの方が抱く質問に対して、医学的な観点から簡潔にお答えします。
ご自身の状況を理解し、少しでも心の負担を軽くするための参考にしてください。
Q1.化学流産でも、つわりのような吐き気を感じることはありますか?
はい、感じることがあります。
化学流産では、着床によってhCGホルモンが一時的に分泌されます。
このホルモンが原因で、吐き気や胸の張りといった、つわりのような妊娠初期症状が出ることがあります。
しかし、妊娠が継続しないためhCGの分泌はすぐに止まり、症状も長くは続かずに自然と消えていきます。
Q2.化学流産を予防するために自分でできることはありますか?
残念ながら、化学流産を直接的に予防する確実な方法はありません。
化学流産の主な原因は受精卵の染色体異常という偶発的な事象であるため、母体側の努力で防ぐことは困難です。
しかし、日頃からバランスの取れた食事や適度な運動を心がけ、心身の健康を保つことは、良好な子宮環境を整え、次の妊娠の可能性を高める上で重要です。
Q3.化学流産は、流産の回数として数えるのでしょうか?
いいえ、医学的には流産の回数として数えないのが一般的です。
産婦人科における「流産」は、通常、超音波検査で胎嚢が確認された後の「臨床妊娠」が中断された場合を指します。
化学流産は胎嚢が確認される前の段階であるため、これとは区別して扱われます。
そのため、不育症の診断基準となる流産回数にも含まれません。
まとめ
体外受精における化学流産は、妊娠判定陽性後の期待が大きいだけに、精神的に非常につらい経験です。
化学流産の原因は受精卵の染色体異常によるものが多いとされていますが、ホルモンバランスの乱れ、子宮の病気、自己免疫疾患、ストレス、過労などもリスクを高める可能性があります。
この経験は、少なくとも胚が着床できる身体であることの証拠でもあります。
化学流産後は、特別な処置は不要で自然な生理を待ち、心身の回復に努める期間となります。
次の治療の再開時期については、医師とよく相談し、焦らずに準備を進めていくことが、未来の妊娠につながります。








